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Selfishly

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Pa 24 「 それぞれの想いの行方 act3」


Pa 24 「 それぞれの想いの行方 act3」



H18,5/21 21:40


山を降り、湖面に戻ってくると、すっかりと日が昇り
朝の静かな一時は、水際に寄せる水音と 
自然の中を散策する鳥達の鳴声だけが響いている。
後、数時間もしないうちに また大勢の人間で賑わうのだろうが、
今は 清清しい空気と日の光が溢れて、静けさを漂わせている。

エドワードは、林を出ようと足を進めている先に
見慣れた人影が佇んでいるのに気がついた。

「おはよう、早起きだな?
 朝の散歩か?」

エドワードが、不自然な位 明るく挨拶をしてやると、
相手も、悠然と返事を返しながら 並んでキャンプ場までの道を進み始める。

「ああ、それを言うなら君のほうが早いな。
 朝の散歩と言うより、深夜の逢引に近い時間にお出かけだったようだが?」

言葉は軽いが、声音には真剣な重みが感じられる。

「あっちゃー、気づかれてたか?

 静かに出たつもりだったのに。
 起こしたんなら、ごめんな。」

素直に謝るエドワードに、レイモンドは それから?と言う様に
眼差しを向けてくる。

「う~ん・・・。
 ちょっと気になる事があったんで、調べに。」

無邪気を装って笑顔を向けて、そう言うエドワードに
レイモンドは 相槌を打ってくる。

「なるほど・・・。
 好奇心・探究心は、錬金術師の性だからな。

 で、何が発見できたんだ。」

エドワードが、瑣末な事では関心を払って動くはずがない事は
最近、行動を共にするようになってわかっている。
レイモンドの口調には、断定的な強さがあり
エドワードに「否」と答えさせないだけのものが感じられる。

エドワードは、どう話すべきかを考えこんでしまう。
レイモンドは、一般の学生とは 少々、相手が違う。
それなりの旧家で財閥の家計の彼は、
その当主となるべき教育を受けて育てられており、
軍にも 浅からぬ縁があると言う事は、
通り一遍の事を言っても、信じないだろう。

「えっ~と、ちょっと気になる動物が居て
 その生態を確認しに・・・・?」

曖昧な笑顔を浮かべて、取り合えず言い訳をしてみる。
これでダメ?と窺ってくるエドワードに、
レイモンドは、苦笑しながら首を横に振る。

「ダメか・・・。」

はぁ~と盛大なため息を吐きながら、肩をすくめる。
エドワードも、こんな言い訳で
相手が納得してくれるような人物でない事は重々、承知だ。
が、発見した事をありのまま言うべきなのかは
難しい問題だ。

いくら、一般とは違うとはいえ
軍に所属している自分達とは、観念も大きく違う。
出来れば、黙って済ませたい事柄だ。
こういう追求が厳しいところも、
今は 傍に居ない男に似ている。
エドワードは 心の中で、
『こんなところまで、似なくていいのに。』と
ぼやいてみる。

百面相をしているエドワードを、面白いと思いながら
観察していたレイモンドが、言いにくそうにしているエドワードに
助け舟を出してやる。

「テロでも発見したのか?」

レイモンドが さらりと告げた言葉に、
驚いて反射的に、エドワードが顔を上げてレイモンドを見る。

「そんなに驚く事もないだろう。
 昨日、君が 人相の余り良くない人間達を熱心に見てたから
 そうかと思っただけだ。」

落ち着いた様子で、そう話すレイモンドを見、
エドワードは 観念したように話し出す。

「うん・・・まぁ、そうなんだけど。

 でも、確証はないから はっきりした事は言えない。」

「で、そう思ったから 確認しに行ったと言うわけか。」

エドワードが、最後まで言わなかった言葉の続きを
続けて、言ってやる。

エドワードは、2度目の盛大なため息を吐きながら
残っていた戸惑いも吐き出してしまう。

「そう。
 多分、どっかのグループが流れ込んできたんだろうな。
 まぁ、それ以上は 1度、確認してみないとわからないけど。」

「なるほど、で?」

どうするのか?と窺ってくる相手に 
エドワードが、首を横に振りながら答える。

「いや、別に どうもしない。

 もう少ししたら、聞いてみるけど
 下手に騒がないほうが良いと思うからな。」

さばさばと明るく言ってのけるエドワードに
レイモンドが 戸惑いながら、言葉を続ける。

「それで、大丈夫なのか?」
避難とかはしなくて良いのかと聞いているのだろう彼に、
エドワードが、頷きながら 話してやる。

「ああ。
 相手も気づかれたとわかったわけじゃないから
 下手に動かない方がいいんだ。
 
 多分、ここら辺の情報は集めているだろうから
 下手に 動いて相手に変に思われると
 逆に 刺激する事にもなるしな。

 今の所、まだ 移動中のようだから
 全員の人数も把握しきれてないし、
 1箇所とも限らないだろう?

 あちらが、このハイシーズンに ここに紛れ込むように来たって事は
 事を荒立てる時期じゃーないって事だと思う。

 まぁ、実際は やっぱり専門に判断してもらってから
 指示を仰ぐようにする。」

だから、安心しろというように エドワードがレイモンドに笑いかける。
そうして、この話はこれで終わりとばかりに
さっさと、自分達の用意したテントの戻って行く。

レイモンドは、その歩いて行くエドワードの後姿を
苦々しい思いを抱えながら見ていた。

エドワードは、レイモンドに安心させるように笑いかけてくれたが
彼は エドワードに そんな事を望んでいたわけではない。
守られたいわけではなく、護りたいのは自分の方なのだが
経験の差は どうしようもない。
彼とて、財閥に生まれて教育も、知識も
こういう事に関しては、一般の人間よりは精通している。
自身が、危ない目にあった事も何度となくあるが、
実際、何度も死線を掻い潜り、ここまで生き延びてきた
エドワードと同じようには並び立てない。
出来れば、安心させるように微笑まれる立場ではなく
共に進める人間として、信頼の微笑を向けてもらえる立場になりたいと願う。

人の上に立つべく教育を受けてきたレイモンドにしてみれば、
始めて 自分と対等に立ち並べる同年代の少年を見つけたのだ。
共に並んで、進んで行きたいと思ってもいる。
が、相手は 常に自分の先を進み
レイモンドは、そんな彼に付いていくしかない。
経験上、仕方ないとは思うが
自分の不甲斐なさに、少々 落ち込んでしまっても仕方ないだろう。

自分の思惑どうりにいかない人間・・・。
幼少の頃から、全て 自分の思うとうりに進めてこれた彼にとって、
エドワードは、始めて知る存在だった。

先を歩くエドワードの、空いている横の位置を見ながら、
レイモンドは、並ぶべく足を進めて行った。





「いいか~!
 正午が エントリー締め切り時間だからなー。
 締め切りが終わっての参加は、選外にする。

 んで、優勝商品は~。」

委員長の デイビットの声が、朝食を取っている集団の間を
練り歩きながら繰り返されている。
エドワードは、レイモンドに ちょっと電話してくると
声をかけて、席を外す。


さりげなく、人気の無い 公衆電話を見つけて
エドワードはダイヤルを回す。
この時間なら、ちゃんと起きれてれば 出てきてるはずだ。

数回のコールの後、電話は繋がったが
予期していた声とは違う人物の声が返ってきた。

『はい、マスタング司令部です。』

「あれ? 少佐?
 中将は そこに居ないのか?」

ロイの直通電話にかけたのだが、出てきたのがハボック少佐と言う事は
主は不在しているのだろう。

『おお~! 大将か?
 どうだ、キャンプは楽しんでるか?』

予想以上の相手の感嘆の呼びかけに、
エドワードは 不思議に思いながら返事を返す。

「ああ、うん・・・。
 キャンプは、結構 楽しくやってるよ。」

『そうか、そうか。
 良かったよな~。
 たまには、学生らしく楽しむ時間があっても良いよな。』

しみじみと語られるハボックの言葉には
苦労の成果を喜ぶ人間のようだ。
相手の反応が、やたら大げさなのを妙に思い
エドワードは聞いてみる。

「少佐・・・、何かあった?
 ロ・・、中将は どうしたんだよ?」

『いや・・・、な~んも無いぜ。
 中将は、今 仮眠室で休んでるんだ。
 ちょっと、昨日 帰りそびれたらしくてさ。』

「へ? 今、そんなに忙しいのか?」

ロイは、余程の時期でもない限り仮眠室で寝泊りすることはない。
まぁ、それは エドワードが住むようになってからではあるが。

『いや・・・、忙しいと言うか
 忙しくしてくれてると言うか・・・。

 まぁ、特に大きな事件があるとかじゃないんだ。
 お前は、滅多に無い学生気分だ、
 しっかり楽しんでこい。』

ハボックの激励に、曖昧な返事を返すしかない。

「う、うん。 ありがとう。」

『で、中将に用事か?』

「いや、別に 中将でなくてもいいんだ。
 ちょっと、聞きたい事があってさ。」

エドワードがそう言うと、さすが軍の精鋭なだけあって
一瞬にして、気配を変える。

『どうした? 
 何かあったか?』

「うん。
 最近さ、こっちに入ってきたグループとかあるのか?
 
 結構、結成は新しいと思うけど。
 経験は少ないけど、頭はいいみたいな。」

『それは どこで見つけた?』

「俺らのキャンプ場と反対側の山ん中。」

『ちょっと待て』

しばらく、向こうで何か話し合っている声が聞こえてくる。
 
エドワードは、やっぱり情報が入ってたかと
納得しながら、ハボックが出てくるのを待っていた。

しばらくすると、ハボックではなく
司令部1優秀な副官が変って出てくる。

『エドワード君?』

「あ、中佐。」

『今、そちらに ハボック少佐とフュリー中尉が行ったんで
 その場所を説明してやってくれる?
 夕刻前には着くと思うんで。』

「うん、わかった。」

『中将に言うと、自分が行きたがると思うんで
 彼らが出てから、私から報告しておくわね。
 
 くれぐれも、一人で行動してはダメよ?』

上司の事を性格に理解している副官らしい対応に
エドワードは、笑いながら返事をする。

「OK。
 俺も、二人が着くまで
 大人しく学生してるよ。」

それに、笑いながら お願いねと言葉が告げられ電話が切れた。

これだけ、行動を早く起こしたと言う事は
あちらでも、追っていた情報だったのだろう。
エドワードは、後は 彼らに任せる事にして
学生達が集う場所に帰っていく。

『忙しいというか、忙しくしてくれてる』
ハボックの言葉を思い浮かべ、
エドワードは 声を聞けなかった男の事を考える。

(まぁ~た、しょうも無いことやってるんじゃないだろうな?)
エドワードが不在にすると、どうも 極端に走って
人間らしからぬ行動をするロイを思って、
エドワードは、苦笑を浮かべるしかなかった。




「ルールは至極簡単!

 まずは、二人1組でボートに乗ってもらって
 反対側に着いたら、漕ぐ人間を交代して還って来る。

 向こうの岸に着いたら、確認のチケット配ってるから
 それを必ず貰う事!
 チケットの貰い忘れ、紛失、確認不可になった物は失格~!
 
 んで、往復の途中で漕ぎ手交代も失格な。
 後は、スポーツマンシップに則って、公明正大に頼む。

 んでは、銅鑼がなったら スタートって事で。」

わざわざ持ってきたのか、横にはアルバートが 銅鑼を片手に鳴らず準備をしている。
参加は 半数を程で、後のものは それぞれの予想を手に
自分の賭けたチームの応援に大騒ぎだ。
学生が賭け事など、言語道断だが
競争には賭けは付き物だ。
朝も 早くから、トトカルチョの元締めは
参加者の名簿を配りながら、受付に勤しんでいた。

今回の 優勝候補は 1番~3番まで、スポーツクラブのチームが上位になっている。
参加者の方も、優勝を狙うよりも 各自の相手との勝敗の賭けに熱意を注いでおり、
大会のトトカルチョ以外に、小さな賭けが飛び交っている。

「よっしゃー! 昼飯は奢りだな。」

エドワードも、昨夜 賭けをする事を決めたメンバーと
互いに 自分が食べたい物を言い合っている。
エドワードは、この湖畔にあるレストランのランチを賭ける事にしている。
有名なレストランなだけあって、ランチも それなりの値が張り
学生が支払うには、やや痛い金額だ。
しかも、食べたいだけとあっては 賭ける人間も
それなりに気合が入る。

当然エドワードは勝つことを前提としているので、
賭け商品の吊上げを進んでやっているのだが、
相手は、エドワードの外見からか
笑って了承をしている。

レイモンドは、了承しているメンバーが
後で顔を蒼くするのを想像して微笑む。
エドワードは小柄な外見ではあるが、
幼少の頃から鍛えてある筋力があり、
普通の人間では、太刀打ち行かない程の身体能力を持っている。
そして、食欲も見た目からは想像できない位に旺盛だ。

『まぁ、この外見では 判断が付けれるわけは無いが。』
レイモンドは 自分より頭1つ分低い
華奢な姿を眺めながら、心でつぶやく。

商談がまとまり、上機嫌なエドワードと一緒にボートに乗り込み
スタートの合図を待つ。
最初は、レイモンドが漕ぐ事になっている。
せいぜい、エドワードの腹が膨れるように頑張ろうと思いながら
こんな風に、学生らしい遊びに参加している自分を面白くも思う。
エドワードと知り合ってから、
今までの自分では不要だと思っていた時間を重ねていく、
重ねていく間に、案外 楽しいものだと思えるようになったのも
エドワードが居たからだろう。
付き合いは、程ほどにこなしはしていたが、
自ら 興味を持って望む程でもない、どこか冷めた面もあった。
が、今は エドワードと一緒に 高揚する気持ちを持って
この場所にいる。
そう感じれる自分が、なんだか新鮮な気持ちで不思議な感じだ。

「おい、レイモンド!
 もう、鳴るぜ、ボッとしてんなよ。」

エドワードに声をかけられて、意識を周囲に向ける。

「わかった。」と笑顔で答えて
オールを力強く握ると、エドワードも よしとばかりに頷く。

打ち手の力量不足か、ボヨォ~ンと微妙な気が削がれる音が鳴り響き
レースの開始が告げられた。


片岸までは、結構な距離がある。
湖面の中盤まで来ると、そろそろ 息切れしているメンバーやら
衝突し合って沈没しているメンバーやらと
TOPの集団と、後続部隊とは差がつき始めている。
最初から、大会のレースはあきらめて個人で賭けているメンバーは
それなりに相手と競って、それぞれの力量に合わせて進んでいる。

「いい風だよな~。
 やっぱり、湖の近くって涼しいよな。」

TOPの集団の上位に漕いでいるエドワード達だが
自分が漕いでいるわけではないので
エドワードは、乗り心地の良さを満喫している。

「エドワード、ちょっとは 必死で漕いでいる俺を
 労ってもいいんじゃないのか?」
苦笑しながらレイモンドが 抗議すると、
エドワードが、笑いながら 反省を告げる。

「あはは、ごめんごめん!
 けど、レイ
 漕ぐの上手いのな。
 安定してるし、乗り心地良いよ。」

「実家は 有名な湖水地方なんで、
 ボートはしょっちゅう漕がされてたからな。」
不要な力を入れず、滑るようにオールを操るレイモンドは
特に力を込めているようにも見えないが、
ボートは スピードを落とさずに進んでいく。

レイモンドの声に、なるほどと納得したように頷く。
周囲は 接戦で緊迫している状況のようだが、
この二人のボート内では、のんびりとした空気が漂っている。

「そっか、 じゃあ 俺の時は少々手荒になるけど、ごめんな。
 なんせ、この手のボートを漕ぐのは始めてでさ。
 船酔いするなよ?」

そう笑って告げるエドワードに、
さすが 初耳のレイモンドが驚いた顔をして見返す。

「エドワード、ボートは 始めてなのか!?」

「うん、ヨットは以前やった事あるけど
 このタイプは、乗せて貰った事はあるけど
 自分が漕ぐのは始めてだな。」

笑いながら、のんびりと返される答えに
さすがに、レイモンドも やや不安になる。

「大丈夫か?」

色々な意味を含む大丈夫を告げてみると、
エドワードは 気にした風もなく、

「ああ、今 レイが漕いでるの見てわかったから
 大丈夫だろ。」
と、気にした風もなく答える。

折り返し地点が近づき、遠くなるゴール地点を見ながら
レイモンドは、少々 心配になる思いを飲み込んだ。


折り返しの岸にTOP集団で着いたエドワード達は、
折り返しのチケットを貰いに、エドワードがダッシュをする。
あっと言う間に戻ったエドワードと場所を替わりながら
オールを渡す。

「よっしゃ!
 左右一緒に力入れればいいんだよな。」

力強くオールを水面に入れた途端に、派手な水音と水しぶきが上がる。
左右のバランスが悪かったのか、ボートは大きく揺れ
思わず縁に掴まる指に力が入る。

「・・・エドワード・・・。」

びしょ濡れになって恨みがましく見つめるレイモンドに
へへへっと申し訳無さそうな表情を浮かべて
エドワードが、再度 オールを漕ぎ出す。

今度は 順調に進みだし、レイモンドをホッとさせる。
スタートのバタバタしている間に、
戦闘の集団は、やや先の方に進んでしまったが
エドワードは気にする事無く
始めて漕ぐボートに喜びを現して楽しんでいる。
エドワードのオールの回転は、かなり速く
ボートは 波を壊しながら どんどんとスピードを上げていく。

見る見る間に、先に出られてしまった集団に追いつき
驚く他のボートの面々を後に、引き離していく。
越されたメンバーが 何かを叫んだり、叱咤、激励の声が飛んでいるようだが
それも程なく 聞き取れなくなっていく。

「エドワード、お前 本当に始めてなのか?」
感心したようにレイモンドが話しかける言葉に
エドワードが 自慢そうに「そう!」と笑いながら返事を返す。
そうこうする内に、ゴールが近づき
どよめく岸の観客達をよそに、エドワード達が優勝のゴールを切る。
番狂わせの優勝者の出現で、賭けは大狂いし
1部の二人のファン達と、乗り手の二人が掛け金を持ち去る事になった。

そして・・・、エドワードと個人的な賭けをしたメンバーは
エドワードの脅威な食欲の前に、さらに 顔を蒼くさせ、
支払いでは、血の気が引いた白へと顔色を塗り替える事となった。


美味しい食事を満喫したエドワードが、
上機嫌で腹ごなしの散歩をしていると
向こうから歩いてくる二人連れに気がつき、
軽く手を振る仕草をする。

相手の二人連れも、先に気づいていたのだろう
笑顔で近づいてくる。

「よぉ! 大活躍だったらしいじゃないか。」

加えタバコの男性が、親しげに話しかけてくる。
横にいる 背が低いメガネの青年は、ニコニコと人の良さそうな表情を浮かべて
レイモンドにも軽く礼をする。

「二人とも早かったな。

 こっちは、友達のレイモンド。

 レイ、こっちが ハボックさんで、隣がフュリーさん。」

階級を告げなかったのは、一応の用心の為だ。
レイモンドは、了承したように二人に挨拶をする。

「どうする?
 今からじゃー、早いよな?」

エドワードの問いかけに、二人連れも頷く。

「まぁ、夜まで待つほうが良いよな。
 それまでに、大将が確かめた場所と状況を説明してもえらう方がいいし。」

「んじゃ、俺らのテントに行くか?
 その方が、紛れ込めてわかりにくいしな。」

「おう、すまんが その方が助かる。
 せっかくの休暇を邪魔するようで悪いんだけど。」
申し訳無さそうに、レイモンドに軽く頭を下げるハボックに
レイモンドは、気になさらないで下さいと答え返す。


「へぇ~、二人にしては 広くないか?」

ハボックが、招いてもらったテントに入りながら感想を言う。

「うん、本当は4人用らしいからな。 
 まぁ、ちょうど良かったよな。」

エドワードは、メンバーにコーヒーを沸かした物を
手渡して、腰掛ける。

「さて・・・。」
話をしようとして、レイモンドの方をチラリと伺い
エドワードを見る。

それで、ハボック少佐の言いたい事がわかったエドワードは
少佐に 心配ない事を告げる。

「大丈夫、レイの奴も知ってるから。
 何? 一般に聞かれると困る内容があるんなら
 席を外してもらうけど?」

エドワードが そう告げると、ハボックは問題ないと言う風に首を振る。

「いや、大将が話したって事は
 構わない相手だって事だからな。
 それに、情報は 別に極秘でもないから
 居てもらっても大丈夫だ。」

レイモンドは、この場に流れる空気に不思議に思うものが感じられた。
今のやりとり自体は、ごく自然なやりとりで
おかしい所などない。
一体、なんなんだ・・・?と心の中で疑問に浮かべる。

レイモンドが、そう思っている間にも
3人は、話を進めている。

「わかった、大将が そのグループを新興勢力だと思ったわけだ。」

「そう。
 頭は結構いいみたいだぜ。
 潜伏先の判断も悪くないしな。

 人数は、入れ替わりしてるみたいだから
 正確に限定できないけど、
 今の所、15位で20はいないと思う。」

「たたきやすそうか?」

「う~ん、どうだろう?
 点在されてるから、一遍に抑えるのは難しいかも。

 でも、集めちゃって囲むのは出来ると思う。」

そうエドワードが言うと、ハボックが嫌な顔をする。

「それって、自分がって事?」

「えっ、もちろんだけど?」

ハボックの質問に不思議そうに返すエドワードを見て
やれやれと肩を上げる。

「なんだよ、少佐。
 俺が 混じっちゃ困るのかよ?」

困ったような、情けないような顔で見合う ハボックとフュリーを
エドワードは、不満げに見返す。

「いえ、エドワードさんが 参加して下さるのは
 心強いし、解決も あっと言う間に済むだろうし
 良いこと尽くめなんですけど・・・・ね。」

フュリーが、気弱な笑顔をエドワードに向けて告げてくる。

「んじゃー、問題はないんだよな。」

エドワードが そう言いきると、
仕方ないかとばかりに、二人で頷き合っている。

「いや、大将が入ってくれるのはありがたいんだけど
 後でな~。」

「そうですよね~。」

二人の妙な息の合い方に、エドワードが 痺れを切らして問いかける。

「なんだよ、二人してわかったような相槌うってさ。
 言いたい事は、最後まで言えよ。」

エドワードに、そう詰め寄られると ハボックが渋々口を開ける。

「大将が参加したって聞いたら、うちの上司が羨ましがるって事!

 あの人、今頃 置いてけぼりになってるのだって
 絶~対、うらんでるぜ。

 俺ら、戻ったら何を言われるか・・・。」

はぁ~とため息をつく二人を、あきれたように見る。

「なんで、テロ掴まえに行くのに羨ましがられるんだよ。
 遊びに出かけるんじゃないんだぜ。

 わかった、ロイには俺からちゃんと話しておくから。」

「頼むぜ大将。」
「頼みます、エドワードさん。」

二人から 必死に頼まれると、さすが あんな上司の下での苦労をさせている事は
申し訳ない気がしてきて、二人には とばっちりが行かないように
する事を約束してやる。

「あ~あ、後の事が安心できたら 腹空いてきたよ。
 大将、晩御飯ってまだ?」

現金にも、コロッと態度を変えたハボックに笑いながら
様子を見てくると テントの外に出る。
それと一緒に、黙って3人の話を聞いていたレイモンドも
テントを出る。

「エドワード。
 あんなに簡単に、参加を決めて危なくないのか?

 応援要請して待った方がいいんじゃないのか?」

レイモンドが、心配げに聞いてくるのに
エドワードは へっ?と意外な表情をする。

「なんで?」

「何故って・・・、相手は15人以上いるんだろ?

 君らは 3人しかいないじゃないか、
 それに君は、今は 1学生でもあるんだ。
 
 何も、テロ殲滅の作戦に入る必要はないだろう?」

「殲滅って・・・。」

苦笑しながら レイモンドに話してやる。

「レイ、殲滅って程 大掛かりな事をやるわけじゃないぜ。
 せいぜい、捕獲するだけだ。

 全く危なくないって事はないだろうけど、
 気づかれてない相手を捕獲するだけだから、
 危険な事って程でもないんだ。

 もちろん、ここに俺が居なければ 応援を要請して対応するんだろうけど、
 たまたま、居たし 見つけたのも俺だし。
 
 それに、3人っても あの二人の優秀さは良く知ってるからな。」

エドワードが、微塵も不安を持ってない 笑顔を見せ
レイモンドに そう告げてくる。
そのエドワードの笑顔を見て、レイモンドは さっきから感じていた
妙な雰囲気の意味がわかってきた。

エドワードは、あの二人に対して、
寄越してきた軍の采配をする人物にも
微塵も不安や、疑いを持っていないのだ。
そして、多分 逆側も同様なのだろう。
エドワードの判断や、行動が 失敗をさせないだけのものを
持っている事を知っており、信頼もしている。
互いに信頼し、理解しあっている絆が深いからこそ
簡単に話が進めれるし、相手の言う事も信用する。
それだけの深い繋がりが、築かれているという事なのだ。

果たして、自分には 今そこまでのものがあるだろうか?
そして、どうすれば相手からも それが得れるのだろうか?

共に並び、進みたいと思った人物は ビックリ箱のように
次次と 新しい面を出してくる。
レイモンドは、驚くだけで 一向に近づけない相手に
悔しさに似た想いを抱える。





静かに時間の流れる司令部内では、
先ほどから、ロイが指を鳴らす音が時たまなり響く以外は
ペンを動かす音も無い。

「中佐、ホークアイ中佐!
 ハボック達から連絡は まだか?」

先ほどから何度目かのロイの問いに、
いい加減うんざりとした気持ちを抱きながら
素っ気無い返答を返す。

「ありません。
 そろそろ着く頃ですので、
 1度 報告が入ると思いますので。」

返答をすると取り付く暇も与えずに、自分の仕事に戻る中佐を見て
ロイは 深いため息をつく。

『全く、仮眠などしなければ良かった。』
寝起きに聞いたエドワードからの連絡で、
席から腰を上げかけたロイがホークアイ中佐から、
すでに ハボック達を動かしましたとの報告を受け
渋々、席に座りなおした。
が、くすぶる 不満を嫌味に変えて
何故、自分に指示を仰がずハボック達を行かせたのかと
言うと、
「混じっても、年齢的に無理がない人物」との事で、
言葉の裏には、暗にロイが歳を食っていると言われて
スゴスゴと引き下がるしかなかった。

が、それ以降 入る連絡を待つだけの体勢はなかなか我慢が強いられている。
その間に出来る仕事を片付けていかない所が
今回できる小さな反抗の証だ。
どちらにしても、後で痛い目を見るのは自分自身ではあるが。

別に、エドワード達の事を心配しているわけではない。
どんな行動を彼らが起こそうが、3人の判断での事なら
間違いない成果を上げるだろう。
無理と解れば、応援を要請してくるはずだ。

ロイとしては、エドワード達では手が余り応援を要請してもらえれば
自分が出て行く口実にもなるのだが、
今回の程度の事では、応援要請をしてくるはずもない事もわかっている。
エドワードに二人に協力するなと言っても
聞き入れてももらえないだろう。
多分、二人が着くまでには 彼の頭の中では
自分が出来ることを練っているはずだ。

出来れば危険な事にも、軍の事にも関わって欲しくはない。
彼の実力を軽く見ているのではなく、
ただたんに、ロイが嫌なだけなのだ。
出来れば 安全な地区に居て欲しいとは思うが
それも、彼の性格を考えると無理な事だろう。

来ない連絡を待ちながら、先ほどから進まない時計を
ため息と共に見つめている。



「と言う事になりました。

 んで、中将は大丈夫っすか?」

『ええ、余り良くは無いけど
 連絡を待って、じっとしてくれてるだけ
 ありがたいわ。
 
 探索に割ける人数もいないもの。』
苦笑の滲む声で告げられ、
向こうの状況も察する。

頑張ってください。と思わず どちらが作戦を遂行するのか
わからない励ましを伝えて、電話を切った。


「ハボックさん、連絡は終わったのか?」

エドワードが慣れない呼び方で呼んで来る。
それに可笑しそうに、返事を返しながらエドワード達が待つ場所に戻る。

「ああ、なんか 手のかかる子供に気疲れさせられてるらしいけど
 まぁ、無事にいるらしい。」

そのハボックの言葉に、フュリーは苦笑を、エドワードは渋い顔をして見せた。

ハボック達は、違和感無く学生の中に混じっている。
もともと、年齢の平均も高い学部でもあるし
人の好かれのするハボックは、すでに何人かと親しそうに話しに興じている。
フュリーは、違う分野のお話は興味がありますと人の良い笑顔で告げると
話し好きな女性のメンバーに掴まり、先ほどから熱心に話を聞いている。

エドワード達も、昼のボートレースの話に華を咲かせていたが
黙り込む レイモンドの気分転換にと
エドワードが 散歩に誘い出した。

日が落ちきった湖では、綺麗に飾られている月が
その淡い光を湖に投げかけ、反射している。
エドワードは、ゆっくりと その風景を見ながら歩き
以前、相手は違うが 同様に散歩をした記憶を浮かべていた。

ゆっくりと歩きながら、エドワードは自然に相手を思いやる言葉を紡ぐ。

「レイ、疲れたんじゃないか?」

「俺が? いや、そんな事はないよ。」

あきらかに覇気が無いレイモンドの答えに、
エドワードは 顔を曇らす。

『やっぱり、テロの話とかしなかった方が
 良かったんだろうな。

 いくら、一般とは 少々違うっても
 聞いて楽しい話でもないしな・・・。』

そんな思いが、エドワードに謝りの言葉を言わせる。

「ごめんな・・・。
 ややこしい事になっちゃって。

 でも、すぐに終わるからな。」

安心させるように、エドワードが 殊更明るく言う言葉を
レイモンドは、複雑な心境で聞いている。

しばらく、また 無言の時間が過ぎていく。
エドワードが、そろそろ皆のところに引き返そうと足を止めると
レイモンドは、その場に 腰をかけ座り込んでしまう。
どうしようかと悩んだエドワードだが、
同様に 横に腰をかける。

「エドワード、作戦は深夜に行うのか?」

唐突に掛けられた問いに、エドワードは 興をつかれたような
表情を浮かべたが、すぐに返事を返す。

エドワードの答えに、レイモンドは 自分の考えを言おうか
言わないべきかと戸惑いながらも、言葉を口にする。

「それに、俺も参加させてもらうのはダメか?」

レイモンドの意外な言葉に、驚きの表情を浮かべたエドワードだが、
申し訳なさそうに首を振る。

「気持ちはありがたいけど、それは無理だ。
 いくら、危険度が少ない仕事だって言っても
 完全とは言えない。

 一般の人間を連れて行くのは、危険が増えるだけだから・・・。」

だから、ごめんなと告げられる言葉に、
レイモンドは予想していた答えでもあったので、頷いた。

「でも、何で 急に そんな危ないことを思ったんだ?」

普通、一般の人間が 好んでテロに関わろうとするわけがない。
エドワードにはレイモンドの心の動きがわからなかったので
聞いてみた。

「焦りか・・・な。」

ポツリと呟かれた言葉を、エドワードが聞き返す。

「焦り?
 なんの?」

不思議そうなエドワードの顔を、ちらっと見ると
レイモンドは、気まずそうに 湖面に顔を向けて話だす。

「昼間に来た二人組と エドワードの、信頼し合ってる関係を見てると、
 今の自分とエドワードとの間には、それ以上のものがないんじゃないかと思った。

 出来れば、自分達二人の間にも それ位の絆が欲しいと思ったんだ。
 で、取り合えず 何をしていけばいいのか解らなかったんで
 同じ視点で動いてみようかと。」

悔しそうに語られる言葉を聞いていて、
エドワードは 驚きの面持ちで相手をみる。

てっきり、テロなんかの危険な事に巻き込んで嫌がられたのかと思っていたら
全く逆の事を考えてたとは。

「いや、別に あの二人と同じでなくとも
 ちゃんと、レイの事も信頼してるぜ。」
そう微笑んで告げてくれるエドワードの言葉に
何故か素直に納得できない自分がいる。

「それとも、俺の信頼が信じられない?」

背けられた顔を、エドワードは覗き込むように窺ってくる。

「いや、お前が俺を信頼してくれているのは
 別に疑ってない。」

「なら・・・。」

「でも、俺は 今以上に信頼も、それ以上の想いもも
 もっと強くしたいと願っている。

 ただの我がままだ、すまない。」

エドワードは、そう告げてくるレイモンドを見る。
一癖も二癖もありそうなこの男が、
信頼を深めて行きたいと願ってくれたのが自分だと思うと、
素直に嬉しいと感じられる。
テロ捕獲の作戦に 無謀に参加しようという無謀は別としても
行動に移そうとした気持ちは嬉しい。

エドワードは、素直に その気持ちをレイモンドに告げてやる。

「そんな事ないぜ。
 俺も、もっと レイと仲良くなっていきたいと思ってるし、
 それって、別に我侭とは違うだろ?

 気の合う奴に、好かれて嫌な人間はいないぜ?」

純粋な気持ちのままの笑顔を向けながら告げられた言葉は
レイモンドの中に、痛い針となって突き刺さる。
その痛みは、レイモンドの口から言葉となって吐き出されていく。

「違う・・・。」

苦々しく吐き出された言葉に、エドワードは戸惑いの表情を浮かべる。

「レイ・・・?」

「違うんだ、エドワード・・・。 
 
 気の合う程度の人間じゃない。

 俺は、エドワード。 君と、出来れば共に並び
 共に進んでいけるだけの人間でありたい。

 ・・・ずっと探していた、そんな人間を。
 そして、やっと見つけた。」

レイモンドは、呆然と聞いているエドワードに 
薄く微笑んで、ゆっくりと両手を上げて
その肩を押さえる。

「エドワード、お前の横に立つ 唯一の場所を
 俺にくれないか?」

そう囁くと、動けないエドワードに
ゆっくりと身体を近づけて行く。

エドワードは、想像の範疇を超えた出来事に
思わず反応が遅れてしまい、
動こうとした時には、すでに回された腕で
身動きが取れない状態になっていた。
近づいてくるレイモンドの瞳と唇が
目的を持ってエドワードに触れる事を告げてくる。

「待っ・・・。」
エドワードが、静止の声を上げようとした瞬間、
ハボック達の、エドワードを呼ぶ声が届いて来た。


「大将~!
 そろそろ お開きだぜー。」

思ったより近くで聞こえてくる声に
レイモンドが そちらに気が逸れ、拘束が緩んだ隙間に
エドワードは、立ち上がり 彼との距離を取る。

「エドワード・・・。」

レイモンドは、今しがたまで抱きしめていた温もりが去った腕を見、
立ち上がったエドワードを、見る。

「ご、ごめん・・・。
 俺、ちょっと今は 混乱してるから
 後で、落ち着いて 話聞く。」

そう言うと、エドワードはハボック達が歩いてくる方向に踵を返す。
エドワードの心臓が驚きで五月蝿く騒いでいる。

『い、今のは何だったんだ?
 なんか、キスされそうな雰囲気だったけど・・・、
 まさかな。』
エドワードには、友人が自分に口付けする理由が思い当たらない。
だから、自分の変な勘違いなんだと思い込もうと、
念じる強さと同じ歩調で、ハボック達の方向に進んでいく。
近づいていくハボック達と普段どうり話して落ち着けば、
きっと 今、抱えている変な誤解も消え去るはずだ。
そう思って、ハボック達の顔を見ると、
そこには、馴染んだ笑顔ではなく、
困惑したような表情を浮かべて、エドワードを見ている。

話しかけれるまで近づいたエドワードが、
妙な顔をしている二人に、疑問を告げる。

「どうしたんだよ、二人まで変な顔して?」

ハボックとフュリーが、互いにため息をつきながら
「何でもない。」と告げて、歩き出す。
強いて聞き出そうとも思わなかったエドワードは
同様に戻る道を進んでいく。
そのエドワードをチラリと見て、ハボックがぼっそりと

「もてるのも大変だよな。」と呟いた。

そのハボックの言葉に、不思議そうな顔を見せるエドワードに
何もないと言う風に、首を横に振ってみせる。
エドワード自身は気がついてないか、考えないようにしているのか。
あれは、どう見てもせまられていた図だ。
遠目であっても、その独特のムードは見て取れる。
そうでなくとも、あのレイモンドという青年が
エドワードに特別な想いを抱えているのは
良く似た人間を知っているだけあって、
なんとなく気がついてはいた。

そして、上司が何故 
今回のキャンプにエドワードが参加するのに
あれだけ不機嫌だったかも
何となく察しがついた。

多分、レイモンドの存在に 気がついていたからだろう。

とにかく、今は何とか乗り切った。

そして、出来れば 俺らがここに居る間、
これ以上の事が、起きません様にと祈る。
嫉妬深い、自分達の上司の事を頭に描いて
切実に願う二人であった。


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